2012/01/21

画技考:素描3

素描というのは特にデッサン力を引き上げる、と言う目的だけではない。もっと重要なのは「絵を描く身体を作る」という点の方が重要である。絵が体技であることは先述した。体技である以上はそれなりの基礎体力が必要であることも先述したし、何よりからだが自由に動くというコトも先述した通りである。これらをまとめて「絵を描く身体」になるのだ。

 絵は手先で描くものではない。びっくりするほど勘違いされている方が少なくないので改めて宣言しておく。ちなみに器用さとも無縁である。これもよく勘違いされている。絵は目と身体で描く。「絵を描くのが苦手」という人は普通目が絵を描くために適していない、と言うケースが大半である。これは別に異常なことではない。走るのが速いか遅いか、と言う程度の違いである。訓練すればある程度まで目を最適化することは出来ます。あくまでも限界はありますが。

 問題は「絵を描く身体」の方だったりする。この点については「画技考:素描1」に書いておいた。全身を使った運動律の話ですね。ここで一つ書き忘れていたことに気がついたので補完してこの項を終えたい。

 筋力の話ばかりしていたが一番大事なコトを書き忘れていたのだ。身体の柔らかさである。素直に柔軟性と言ってもイイ。体育の授業でやる柔軟体操みたいなもん。実を言うと絵を描く上で一番必要なのは股関節の柔らかさである 。「また、アホなコトを」と思われる方も少なくないと思われるが実際そうなのだから仕方が無い。普通、絵を描くときは上半身の運動が基本となるが、この運動を支えるのはあくまでも下半身である。長時間、同じ姿勢をキープしようとすると余計に下半身への負荷は大きくなる。下半身ではなく背筋とか腰に来る人は下半身が使えていない証拠だ。全部、上半身で片付けようとするから負荷が必要以上にきつくなるのだ。

 一番、下半身の保持力が無駄なくキープできるのは「腰が割れた」状態である。重心が腰に安定してかかるような状態。もっと分かりやすく言えばお相撲さんが四股を踏むときに両足を広げて腰を下に落とした状態、あれである。ちょっと極端だけど。
 もっと極端な例を挙げれば「結跏趺坐」を試してみるとイイ。完全に安定して座り込んだ状態で 上半身が自由に動く。もっとも簡単に結跏趺坐はできないらしいのだが。あ、筆者は余裕で出来ます。股関節と膝関節が柔らかければ何の問題も無い。
 結跏趺坐をすると自然と上半身が真っ直ぐな状態になる。腰に重心が落ちている証拠だ。こうなると姿勢を保持するために上半身の筋肉はほとんど使われないことになる。別の言い方をすれば上半身は全て絵を描く事だけに集中して使えるのである。絵を描くだけなら別に強力を発揮する必要は無い。必要最小限の筋力で十分である。結跏趺坐でなくて胡座でもイイのだが、胡座の時はできるだけ膝を外に向ける。望ましいのは120°ぐらい開けばいいのだが、これも無理という方がよくいる。となると普通に椅子に座る、というコトになるのだが楽な分だけ自然で無理のない良い姿勢を保持しづらい。背筋が伸びてない人、それは悪い姿勢です(笑)

 ちなみに筆者は普段椅子の上で結跏趺坐を組むか胡座を組むかして絵を描いている。クセになってる、と言うのも事実だが実際楽なのだ。上半身が疲れることはあり得ない。

 今出来ないからといって嘆く必要は無い。これまた訓練で簡単にできるようになる。要は股関節を柔らかくすればいいのだ。この手のメソッドに関してはストレッチ運動に腐るほどあるが一つだけ例を挙げておく。筆者もやってる。

 まず床に座って両足の裏の全面を無理矢理ひっつけてそのまま股間に無理矢理踵を持ってくる。最初は膝の位置が高いかもしれないがそんなコトはどうでもよろしい。重要なのは足首で無理に足の裏をひっつけないようにすることだ。で、その状態で膝だけを上下に動かす。股関節に負荷がかかるように膝はできるだけ外に向ける。 最初は可能な範囲でイイです。無理すると筋切れます(笑)詳しくはこちらでも見て下さい。ストレッチの意図そのものは全く違いますが、やり方は一緒。半年もやればある程度効果は出るでしょう。もちろん個々人の体質によって効果は変わります。別に股関節が柔らかいからエラい、というワケではないのでその辺は勘違いしないように。あくまでも腰に安定して重心が落ちるようにするための実際的な方法論の一つにすぎません。
 ちなみに立って絵を描く場合は更にハードルが上がります。足を使いますからね。
 腰が安定すれば多分上半身の身体の柔軟性も気になるようになると思う。重心が落ちきっているので、上半身の柔らかさだけでしか身体は動かない。特に背筋、側筋、腰の硬さが露骨に出る。これは普通に絵を描いているうちに次第にほぐれてくるので特に訓練は必要ないです。

 絵を描くという行為が身体運動である、ということがこれでよく分かると思う。ちなみにここでは「絵のテクニック」は全く介在していない。その前の段階である。単純にどのような方法でも良いから絵を描く上で上記した身体能力は必ず使われている。絵を描いていて身体のどこかに異常を感じたら、それは恐らく根源的には重心の安定性に問題があるはずである。だから、素描の段階でこうした身体能力を訓練するのだ。見ようによっては呆気なさ過ぎるかもしれないが、実際そのようなもんである。

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